ももんじ通信

本と落語と時々博物館

ラーメンを食べるとき

滅多にないことだけど、どうしてもラーメンが食べたい時がある。この渇きは、飢えはラーメンでしか癒せないという瞬間が人生には幾度も訪れる。

昨日がちょうどその日だった。

当日券で演劇の昼公演を見た後に以前から予約していた落語会があった。演劇を観るのには、体力をたくさん使う。観劇前に食べた菓子パンはもはや胃袋からは跡形もなく消え去っていて、夜の落語の前に何かを食べる必要があった。

会場は中野。中野駅の南口のマルイ2階にはコメダ珈琲店があって、以前からシロノワールとバンズをゆっくり食べてみたいと思っていた。

その前にまんだらけで用事があったので済ませてしまおうと北口の中野サンモールへ。

中野ブロードウェイへ向かうアーケードの中には飲食店が充実していて、何軒かラーメン店もある。それぞれ入ったことはないがとても美味しそうだ。店先に貼られた写真を冷やかしながら進むと、透き通った醤油ベースのスープのラーメンの写真が目に飛び込んできた。色々な食材で出汁を取った、豚骨ベースの博多ラーメンだという。こんなにも透き通ったスープの豚骨があるものかと思いながら、その時は店舗の前を通り過ぎた。

まんだらけでの用事を済ませてコメダ珈琲店に向かう道すがら、ふとまたあの写真に目がとまった。目が合ったとも言えるかもしれない。

これからコメダ珈琲店に向かう自分を想像した。あそこのコメダは、いつも5人くらい並んでいるので、向かって並び始めてようやく通されても落語会の開場間近だろう。コーヒーとシロノワールを頼んで、掻きこむようにしてそれらを食べ、封を切った豆菓子なんか飲み物のように口の中に流し込んで、這々の体で開場へと向かう………………。

気付いた時には券売機の前に立っていた。目当てはあの透き通った豚骨ラーメン、と思った刹那に大きなポップの貼り付けられたボタンに目がとまった。

「人気NO.1!!」

見回せば、その店には例の醤油ベースのラーメンだけでなく、たくさんのトッピングが乗ったラーメンがあるのだ。私の大好きなネギがこれでもか!と乗ったラーメンすらある。

なによりこのポップだ。「人気NO.1!!」とまで言われて無視をしてしまえば、男が廃る。せっかく貼られたポップも惨めだろう。

気づいた時には、その人気NO.1なラーメンの食券を握りしめて席に着いていた。思えば人気NO.1なのだ。私が頼まなくても、たくさんの人に頼まれるだろうに。

福岡系のラーメン店のカウンターには所狭しと壺が並べられている。それをひとつひとつ開けてみると、高菜や紅生姜が入っていて俄然ラーメンが来るのが楽しみになってきた。

傍らにはラーメンに入れるニンニクを砕くための機械まである。

いやいや、これから人に会って落語を聴くのだ。あまり臭いの強いものは………葛藤のうちにラーメンがきた。

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2種類のチャーシューにトロトロの煮卵まで乗っている。アクセントは千切りにされたキクラゲだ。そこにこれでもかと高菜と紅生姜を投入する。ニンニクは……鞄の中を確認すると、以前に買った使い捨てのマスクが残っているのが見えた。

私はニンニクを、力いっぱい押し潰し、スープに投入した。

ラーメンを食べている時によくあるのは、一口目の時には「こんなに美味いんだから替え玉いけるっしょ」という根拠のない自信だ。今回もそんな気持ちで食べ始めた豚骨ラーメンだったが、麺を食べ切る頃には「ナマ言ってすみませんでした」という気持ちが芽生える。結局今回も「替え玉はもっと硬い麺を頼もう」と思っていた気持ちが嘘のように消えていったのだった。

高菜の辛子で赤く染まったスープも、食べているうちに健康が気になってきて最後までは飲まず、ただ出来るだけ沈んだ具を頑張って食べる。こういう時、味噌ラーメンについて来る穴あきのレンゲが恋しくなる。

ラーメンというのはこのように往々にして、狂気のうちに食べ始め、冷静を取り戻すことで食べ終える食べ物なのだ。